バラなどのお花に限らず、一般的に「産地直売は安い」というイメージがあるようです。実際、産直を売りにしているオンラインショップの中でも、「中間コストがかからないため、格安で販売しています」というような文面を大きく掲げている店舗もあるようです。一方、お気づきかも知れませんが、佐伯バラ園 伊予のよいバラ.com では、「産直だから安い」というアピールを一切していません。それは、産直だから安いという主張に少々疑問を持っているからです。
個別対応に伴う作業・経費の増大
生産者が直接販売を始めると、これまで行っていた生産にまつわる作業以外にも、様々な作業を行わねばならなくなります。産直は、もともと生産していたものを箱に詰めて送ればいいだけだから、初期投資も何もいらないし、差額分だけ丸儲け、と思われる方がいらっしゃいましたら、それは違うのです。
▼発送に伴う作業--梱包・ラッピング・集金etcの手間
産直を始めると、まず第一に、梱包・発送作業が必要となります。バラは商品の性質上、ギフト用の需要も多く、間違いがないよう、とても気を遣います。また輸送中の衝撃にも弱いため、どうすれば傷まずに送れるか、そうした点も自分たちで考え、工夫しなければなりません。
そして、必要となるのは発送作業だけではありません。サイト運営やお客さまへのお問い合わせに対する個別対応もそうですし、バラはギフトの需要が多いですから、ラッピング、メッセージカードの作成、お客さまのご希望どおりの品種をお届けすること等々…。
また、これまでは必要なかった集金業務も必要となります。
こうした作業を、普段の栽培業務に加えて行わなければなりません。生産者であることに加えて、お花屋さんとしての仕事も求められるわけです。これまでは生産者としてのシステムしか持っていなかったわけですから、新たにお花屋さんシステムを始めるには多くの労力と、試行錯誤が必要となります。
また、当園ほどの規模のバラ園では、これらの作業は注文が増えれば効率化されるというものでもなく、逆に、注文が増えれば増えるほど、作業は繁雑になってゆきます。
▼流通経費--小規模店舗では輸送コストが高くつくのです
「生産者→市場→卸→(仲卸→)ショップ(花屋)→消費者」 という販売経路が、
「生産者→消費者」
という経路になれば、中間流通コストがかからず、安く提供できるというような主張は多く見られますが、そうとも言い切れません。
一見もっともらしく思えるこの図式ですが、大きな見落としがあります。
それは、市場を通す流通経路は、独自の経路が確立されていて、大量輸送による大幅なコスト削減が行われているということです。
生産地から消費者へ直接届ける場合は、運送業者にお願いして宅配便でお届けします。
けれども、一個の生産農家が一日に発送する件数などたかが知れています。一日百件単位で発送をお願いするのでしたら、ある程度値引きも可能でしょうが、当園程度の規模では、皆さんが普通に宅配便を利用されるときと運送料はそう大きく変わることはありません。
また、梱包材なども個別に必要となってきます。こちらも発注する数は知れていますから、コスト削減は見込めません。逆に、花束、アレンジの大きさに応じた様々なタイプの箱を作らねばならず、そうした面ではコストは割高になってしまいます。
それに加えて、バラは生ものだけに輸送中のトラブルがどうしても発生します。それを防止するための様々な取り組み、トラブルが起きたときの代品などの対応、こうしたことも行わねばなりません。
産直をすることで、流通経費がかからなくなり、そのぶん大幅に価格が下がるというのは、一面的なとらえ方だと思います。
▼栽培品種の選定--ちょっぴりギャンブル?!
直接販売すると、お客さまにとってより魅力的な品揃えをするために、新品種の導入を積極的に行うことも求められます。市場向けであっても、こうした努力は求められますが、直接販売する方が、花束・アレンジを作るときのバランスなどもありますから、選択はシビアになります。
新品種を導入する際には、苗業者から100苗単位で購入します。バラは、一苗毎に新種開発者へ「パテント(特許)料」を支払わねばならず、切花生産者が挿し木等で勝手に苗を増やすことは禁じられています。
ところが、こうして100苗単位で購入した新品種が、必ずしも成功するとは限りません。業者さんから送られてくる品種紹介のカタログには、ある程度の性質は紹介してありますが、植物ですから、環境によって合う、合わないもありますし、思いも寄らない欠点が見つかり、ろくに採花しないうちに栽培を中止しなければならない場合もあります。(病気が発生しやすい、カタログと花色が微妙に違う、花の開きが早すぎる等々…)
こうした場合、せっかく買った苗が使えないだけでなく、成長させるためにかかったコスト、その苗を育成させるために使用していたスペースなど、すべてがムダになってしまいます。
もちろん、同業者同士である程度情報を交換しあって、実績のある品種を導入して栽培すればこのようなことは起こりにくいでしょう。けれどより新しく、珍しい品種を導入しようとすればするほど、こうしたリスクは増えるのです。
きめ細かなサービスをすればするほどその分、作業は増え、価格に反映されます。野菜を育てる感覚でバラを育て、お届けするのでしたら、さらにお安くということも可能かも知れません。
でも、私たちは、多少手間暇がかかっても、柔らかく優雅で華やかなバラの雰囲気を大切にしながら、育て・お届けしたいと願っています。バラを良い意味でバラらしく育て、お客さまの所へお届けしたいのです。「バラ格安一本100円!」 なんて売り方は、バラに対してあんまりの扱いじゃないかと思うのです。
生産者と市場・お花屋さん
さて、上に書いたような事情を踏まえても、もしかしたら、産直ショップは市場を通して販売するより、お安い価格でバラを提供することは可能かも知れません。けれど、たとえそうだとしても、私は、「中間コストを削減したから安くなりました」とは言いたくないのです。
▼市場の利点・問題点--業界全体が元気になる販売を!
「市場を通さなければ安くなる」という言い方では、市場や、街のお花屋さんがあたかも不要なものであるかのような誤解を、消費者の方へ与えるおそれがあると思うのです。
当園でも、市場を通してバラを販売しています。消費者の皆さんが、日本全国一年を通じて、さまざまな品種の花を手に入れることができるのは、市場というシステムがあるおかげです。生産者としても、必要とするお客さんの所へ届けてもらえるこのシステムは大変ありがたいものです。また、このシステムの中で、お花屋さんは、私たち生産者にとっては、同業者であると同時に、大切なお客さまでもあるのです。
もちろん、市場やお花屋さんにも問題はあります。(生産者側にも問題があるのと同様に…) 市場では、的確に品質を判断する態勢が整っていないことや、流通の段階で余計な日にちがかかり、鮮度が保てないことなど、お花屋さんでは、一日でしおれてしまうような花を格安と言って販売…。(在庫処理のつもりなのでしょうが、商品としての花への信頼を失わせる結果になっているような気がします。)
現状では、
生産者と市場、販売店の連絡がまったくと言っていいほどないのです。
けれど、問題は、価格よりもむしろ品質にまつわる事柄の方が大きいと、私は思っています。
業界全体が元気でなくなるような無理な価格破壊をするより、まずは、価格に見合う品質をお客さまに提供すること、それが現在私たちの為すべき事だと思っています。
お花の値段が割高なものだというご意見も、もっともなものだと思います。この問題は、花卉業界全体で解決すべき問題だと思います。もちろん、それには業界の一員として私たちも責を負うものです。
価格と「価値」
それでは、価格とは何なのでしょう。
私は、価格とは「価値」だと思っています。「価値」は、バラの品質だけでなく、そのバラを作るまでの栽培努力・栽培姿勢や、サイト作り、ラッピングなどのサービス、お客さまへの対応など、すべてを含んでいます。
オーナーを始め、スタッフは皆自分たちのバラの品質に自信を持っています。アピールポイントにしている「花持ちがよい」というのは、佐伯バラ園のバラの自慢の一つに過ぎません。
私たちは、「バラの生命力そのものを引き出している」と自負しています。茎も立派で、葉もつややか、花びらにもハリがあります。花瓶にさしていたバラから、新芽が出てきた!という驚きの声をお客さまからよく頂戴いたします。それでいて、バラの気品を失っていません。
もちろん、お花だけを楽しめればいいという方には、こんなことは何の値打ちもないかもしれません。
けれど、少なくとも、作っている私たちは、こうしたことに価値を見いだし、喜びを感じています。
バラの値段だけを見て、高い安いと評価をするのではなく、こうした点まで見ていただき、それを同じように価値として共有できるお客さまに巡り会えたら、これに優る幸せはありません。
一方で、私たちは、販売する価格に見合うだけの価値を提供しているつもりでいますが、お客さまの中には、価格に見合った価値を見いだせなかったと仰る方もいらっしゃるかもしれません。そうしたお客さまのお言葉は、慎んで拝聴し、さらに価値を高めるため、たゆまぬ努力したいと思っています。
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